最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)1210号 判決 1969年6月24日
上告人
松本実太郎
代理人
筒井貞雄
被上告人
玉段ふさの
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人筒井貞雄の上告理由一について。
所論の別件訴訟について上告人(別件訴訟の被上告人)勝訴の確定判決があつた事実は、当裁判所に顕著な事実である。しかし、右別件訴訟における上告人(別件訴訟の被上告人)の請求原因は、被上告人(別件訴訟の上告人)所有にかかる原判決末尾添付の別紙目録記載の建物(以下単に「本件建物」という。)およびその敷地(以下両者を指称するときは、単に「本件不動産」という。)について、被上告人と上告人との間に売買契約が締結され、その旨の所有権移転登記を経由したが、被上告人(別件訴訟の上告人)が約定の明渡期日に至つても、本件建物を明け渡さないので、上告人(別件訴訟の被上告人)は、右契約の履行として本件建物の明渡および約定の明渡期日の翌日以降の右契約不履行による損害賠償としての金銭支払を求める、というのであり、右別件訴訟の確定判決は、被上告人(別件訴訟の上告人)主張の右契約の詐欺による取消の抗弁を排斥して、上告人(別件訴訟の被上告人)の請求原因を全部認容したものである。されば、右確定判決は、その理由において、本件売買契約の詐欺による取消の抗弁を排斥し、右売買契約が有効であること、現在の決律関係に引き直していえば、本件不動産が上告人(別件訴訟の被上告人)の所有であることを確認していても、訴訟物である本件建物の明渡請求権および右契約不履行による損害賠償としての金銭支払請求権の有無について既判力を有するにすぎず、本件建物の所有権の存否について、既判力およびこれに類以する効力(いわゆる争点効、以下同様とする。)を有するものではない。一方、本件訴訟における被上告人の請求原因は、右本件不動産の売買契約が詐欺によつて取り消されたことを理由として、本件不動産の所有権に基づいて、すでに経由された前叙の所有権移転登記の抹消登記手続を求めるというにあるから、かりに、本件訴訟において、被上告人の右請求原因が認容され、被上告人勝訴の判決が確定したとしても、訴訟物である右抹消登記請求権の有無について既判力を有するにすぎず、本件不動産の所有権の存否については、既判力およびこれに類以する効力を有するものではない。以上のように、別件訴訟の認定判決の既判力と本件訴訟において被上告人勝訴の判決が確定した場合に生ずる既判力とは牴触衝突するところがなく、両訴訟の確定判決は、ともに本件不動産の所有権の存否について既判力およびこれに類以する効力を有するものではないから、論旨は採るをえない。なお、右説示のとおり、両訴訟の確定判決は、ともに本件不動産の所有権の存否について既判力およびこれに類以する効力を有するものではないから、上告人は、別に被上告人を被告として、本件不動産の所有権確認訴訟を提起し、右所有権の存否について既判力を有する確定判決を求めることができることは、いうまでもない。
同二について。
論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断および事実認定を非難するものであつて、原判決には所論の違決はないから、採るをえない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松本正雄 田中二郎 下村三郎 飯村義美 関根小郷)